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赤石山
様々な高山植物が自生する登山家にも人気の植物と歴史の山
赤石山系
愛媛県東部の新居浜市から宇摩郡土居町にかけての法皇(ほうおう)山脈のうち、峨蔵峠の東のハネズル山(標高1282m)以西の山系市街地の南方、石鎚山系くらいまでに、ほぼ東西にのびる山地を赤石山系といいます。この広がりはおおよそ、東西15km、南北10km程となっています。
石鎚山脈の支脈の一つで、赤石山系には、西赤石山(標高1626m)、東赤石山(標高1706m)、二ツ岳(標高1647m)など1400~1700mの山々が連なっています。
東赤石山、二ツ岳、山頂部が平坦な広場状となっているどっしりとした姿から「伊予小富士」と言われる赤星山(標高1453m)を併せた土居三山は、四国屈指の名峰で多くの登山客が訪れています。
東赤石山を中心として、前赤石山西面から権現山(標高952m)越えまでの赤石山系の稜線は、地球のマントル(地下深部数10km以上)を構成する比重の大きい岩石:橄欖岩(かんらんがん ※)という岩石で構成されています。
赤石山を形成する橄欖岩に含まれる鉄分が参加して、岩が赤茶けているのが「赤石山」という名の由来となっており、中でも東赤石山は古くは「赤太郎尾」と呼ばれていました。
赤石山一帯には長い歴史を重ねた五葉松が何万本となく自生しており、広大な五葉松の原生林が広がっています。
※橄欖岩:火成岩(深成岩)の一種で、ケイ酸分(SiO2) 成分に乏しい超塩基性岩に分類されます。ケイ酸分が約45%以下の少ないマグマが地下深部でゆっくり冷えて固まってできるものとなります。黄緑色~緑色のかんらん石,暗褐・緑~緑黒色などの輝石類(頑火輝石・透輝石)、黒色のクロムスピネルなどがモザイク状に集合しています(等粒状組織)。長石類はほとんど含まれないため、密度が約2.9g~3.5g/cmと非常に高くなっています。
※庭や川原に落ちている身近な石の密度は2.0g~3.0g/cm
東赤石山について
赤石山系の中でも最高峰である東赤石山は、愛媛県四国中央市(旧宇摩郡土居町)と新居浜市(旧宇摩郡別子山村)の境界にあり、赤石山系の中央部に位置しています。
橄欖岩が剥き出しになった荒々しい岩峰が特徴的で、山頂一帯は針葉樹が多く特異な山の形をしており、四国随一の高山植物の宝庫となっています。日本二百名山、花の百名山、四国百名山などに選ばれています。
頂上には、地図作成・測量の基準として利用されてきた三等三角点が設置されています。
橄欖岩に含まれる鉄分が酸化した赤茶けた岩と、高山植物の色合いが相まった独特の色合いを見せ、紅葉時には山全体が、さらに赤く濃く色付きます。
山頂からは、石鎚山、徳島県の剣山(標高1995m)などの四国の名峰をはじめ、四国の山々が幾重にも連なって見え、北側の眼下には瀬戸内海に浮かぶ島々や、天気が良いと本州まで見えることもあります。
所在地 | 位置 | 山系 | 標高 | 最高気温(6月-8月) | 最低気温(6月-8月) |
愛媛県四国中央市/新居浜市 | 北緯33度52分30秒 東経133度22分30秒 | 石鎚山脈東部―法皇山脈 | 1,706.0 m | 20.6℃ | 8.1℃ |
赤石山系、東赤石山の植物
赤石山系の植物はきわめて多く、高山植物・亜高山植物が豊富で、特にツガザクラや、アカモノの群落は有名です。
標高1700m以下の所での高山植物の分布は、赤石山の大部分を占める橄欖岩地質をはじめとして、多様な鉱物を産出する特殊な地理的要因によるものです。
また。海抜高度が低い割に、高山植物が多く自生しているのは、赤石山系が強い南風にさらされて、高山地帯特有の乾燥した砂礫地と同様の地形ができているためと見られています。
赤石山系の中でも東赤石山は四国随一の高山植物の宝庫とされ、昭和32年(1957年)12月に東赤石山の「五葉松」を含めた赤石山系の高山植物が、愛媛県文化財保護条例第37条の規定により天然記念物に指定されています。
「盆栽の女王」の異名を取る「赤石五葉松」には、東赤石山の原生林の息吹が色濃く留められています。
赤石山系の高山・亜高山植物の分布は、赤石山系を形成している母岩の相違によって地域差が見られます。
例えば、ツガザクラやアカモノは角閃岩・結晶片岩地帯に分布し、橄攬岩地帯には、コウスユキソウ・ユキワリソウなどが見られます。また、「赤石五葉松」も、東赤石山のような橄攬岩地帯特有の植物です。
赤石山系では、銅山峰(標高1300m)にはツガザクラ(平成31年に「分布南限に当たる良好な自生地であり、植物地理学的、生態学的、遺伝学的に価値が高い」として、国の天然記念物「銅山峰のツガザクラ群落」に指定された)、コメツツジの大群落が見られます。
アカモノは広範囲に渡って自生しており、5月下旬頃白い花を咲かせ、美しい景観を醸し出します。
植生の垂直分布帯としては、0m~500mが低山帯、500m~800mが暖帯落葉樹林帯、800m~山頂1706mの高木層にクロベ、ツガ,ヒノキ,ウラジロモミなどの生育する常緑針葉樹自然林となっています。草木層にはススキ類、コシダ、ワラビ等が叢生しています。
地理的には銅山峰から西赤石山頂を経て前赤石の間には、唐松・ヒノキ林以外では、落葉樹林、ミズナラ、ヤマヤナギ、リョウブ、ネジキ、シロモジ、ダイセンミツバツツジ、キバナツクバネウツギ、アケボノツツジ、スズタケ、コヨウラクツツジ、シロドウダン、ノリウツギなどの低木層や、低木層と亜高木層の混生型の雑木林があり、春にはツツジ、秋には紅葉を楽しむことができます。
東赤石山の地質
四国中央市を流れ瀬戸内海に注ぐ関川上流域の赤石山系には,東赤石橄欖岩体や五良津緑簾石角閃岩体(いらつりょくれんせきへんがんたい ※中程度の圧力および温度の条件で形成された変成岩体で黄緑色に見える)などに付随して、三波川帯の中でも最高変成度の変成作用により形成されたエクロジャイト(※高温高圧下でできた変成岩)やざくろ石角閃岩(※塩基性の火成岩が変成作用を被ったとされる岩石)など国内でも珍しい岩石が産出します。
東赤石山周辺は地質学的、岩石学的に大変重要な意味を持っています。
東赤石山の橄欖岩の特徴は、他の岩石と比べて地殻を形成する重要な物質の1つである二酸化ケイ素が少なく、酸化マグネシウムが多く、酸化カルシウムが極端に少なく、超塩基生岩と呼ばれています。
三波川変成帯に属し、超塩基性岩が広く分布しており、東赤石山橄欖岩体と呼ばれ、日本最大規模のものと認知されています。北側斜面は五良津岩体と呼ばれており、角閃岩やエクロジャイトなど高圧下で生成した変成岩が見られます。
また、蛇紋岩は、橄欖岩が地下深部で水分の作用を受けて変質してできる岩石で、橄欖岩の岩体の周縁部や断層等弱線に沿う部分で滑石化(かっせきか)されていることが多いのですが、赤石山系でも同様の傾向が見られます。
岩石が酸化され赤色化したことが、赤石山という名前の由来ともなっています。
東赤石山を中心とする赤石山系は、昭和51年(1976年)3月に良好な自然環境を保護すべく自然環境保全地域と指定されています。1790.34ヘクタールの自然環境保全地域のうち、中でも特に良好な自然環境を有していると認められた特別地区は410ヘクタールとなっており、現在も良好な状態で保護されています。
橄欖岩から構成され、東赤石橄欖岩体のように広大な露出を持つ岩体は地質学的、岩石学的にも興味深く、またその地質により、マグネシウムを多く含み塩基性は強いので、植生にも特異性があり、高山植物の宝庫という観点からも、植物学的にも貴重な地帯となっています。
愛媛県の特別保護地区に指定されており、数多くの珍しい高山性の植物が植生しているという点、東赤石山に連なる八巻山は蛇紋岩系の橄欖岩が露出しており、赤褐色の山肌は四国地方では稀なアルペン的な光景も楽しめ、学術研究者・専門家以外だけでなく登山客にも人気です。
「赤石五葉松」盆栽は、このような稀少性のある自然界、自然の営みと歴史を背景に生まれた類まれな自然の産物といってもいいでしょう。