赤石五葉松の人気の理由
五葉松の山取り
自然の山に自生している小さな木を採取してきて、鉢に植えて盆栽として仕上げた盆栽を山取りの盆栽と言います。畑や鉢で育てた木に比べると、自然に育ったため、幹肌の風合いや力強い生命力を感じさせ盆栽としての価値を高めました。
赤石五葉松盆栽においても、、昭和30年代頃は、赤石山一帯にたくさんの五葉松が生えていて、山から採ってきたものは「山採り」と呼ばれ、関東圏からこぞって買いに来る程の人気がありました。
赤石山の山頂付近一帯の高山植物は、愛媛県の天然記念物(『赤石山の高山植物』昭和32年(1957年12月14日指定)に指定され、条例によって規制され、勝手に採取することは禁じられました。
山取りから実生へ
需要の高まりと共に山採りの苗が取り尽くされてしまったのもあり、山で種子を採取し、種から苗を育てる、実生苗の仕立てをする方式にと変化していきます。
当時は、種の採取は8月25日の解禁日以降9月10日頃まで行われていました。山肌に自生する五葉松に、体にロープを巻きつけて登った後、ロープを引っ掛けて枝をたぐり寄せながら松かさを採取します。急斜面での作業となる危険な仕事でした。
実生仕立ての方法は今も受け継がれ、現在、危険な採取方法は取られていませんが、畑に地植えされている松から松かさを採取します。
種の採取
採種時期はまだ、松かさが開ききっておらず、青さの残る状態の8月下旬から9月中旬です。松かさを採取したら、まず日光の当たらない場所に保管しておきます。
採取した松かさは、次第に茶色が濃くなり、かさが開いていきます。開いたかさから種子を取り出します。種子の抜き取りにはピンセットを使用すると容易です。種子には薄い羽が付いています。茶色い種粒の部分を持ち、羽を軽く引っ張ると、簡単に羽が取れます。
その後、種子を水中に入れておくと、総じて優良種は沈み、手で押して沈むのは2番種、まったく沈むのが不良種となります。種の種別を、優良種、2番種、不良種に分けておきます。
選別後、乾燥させ、紙袋や麻袋に入れて、種を播くまで湿度のない低温の場所で、保管しておきます。
保管しておいた種を気温がまだ上がりきっていない、15℃以下の時期、採種の翌年2月末から3月初めにかけて播種します。
播種後にビニールで被覆すると、3月下旬~4月中旬には発芽します。
種から発芽した五葉松の育て方
1年目の苗の管理は、主に灌水と害虫の防除です。
2年目には1月下旬から3月下旬の間に、苗の移植を行います。また、梅雨明けから11月上旬までの苗が一番太る時期に、1ヶ月に1度の施肥をします。
3年目になると、順調に育てば、枝数も増え、幹も多少太ってきます。消毒や施肥を2年目と同じ要領で実施します。肝心なのは5月中旬から6月中旬にかけて行う芽摘み=春芽の処理です。春芽の処理できなかったものは、9月~10月頃に秋芽を処理します。
4年目には、2月から4月にかけて2年目と同様移植します。また、枝抜きも行い樹形を整えます。1度に切ると根とのバランスがわるくなるので、1年毎に枝を外していきます。
幹が本格的に太りだす5年目以降は、移植・消毒・施肥・芽摘み・枝抜きを繰り返し、幹を太く丈を低くするよう培養管理します。畑で栽培された幹は、鉢で栽培されたものと違って、かなりの太さになっています。
盆栽として骨格が出来上がるのが8年目以降となります。この時期には、不要な枝や太枝と根のバランスを考えながら整枝していきます。
鉢上げは10年~12年目位となります。実生仕立ての赤石五葉松がいよいよ盆栽となります。鉢上げ後は、本格的な整枝をして、幹の太さと樹高に合った鉢に植えます。
昭和の終わり頃山採り苗も、移植・消毒・施肥・芽摘み・枝抜き等は、実生苗同様の培養管理がなされ、農家の圃場では、年度別の実生苗・山取り苗が各所に栽培され、鉢植えした盆栽は管理に便利な家の近くに棚を仕立てて育成されていました。
実生の赤石五葉松盆栽
愛媛県土居町では多くの職人が赤石五葉松の原種を守りながら、種をまいて長い年月をかけ、盆栽をつくっています。
それは数年でできることではなく、十年、百年かけて完成されます。多くは祖父やそれ以上の代から引き継いで五葉松を育ててきました。
今まいた種が盆栽になるのは自分の代ではないかもしれません。それでも職人たちは後世に赤石山の自然を残すべく、種をまき続けるのです。